ポートレイトスナップブック 奥田修一の言葉
Shuichi Okuda's Writings & Essays




 富良野盆地の中程を流れる、フラヌイ川の土手にイーゼルを立てて、川と道が並んでゆるやかに曲がりながら、遠ざかって行く画を描いていた。遠景の山々の頂きは、何日か前に降った雪で白い。近くにある堰を水が越える時に、心地好い音をたてている。その音をさえぎるように、もう何分も軽トラックのエンジン音が、私のすぐ背後で聞こえる。私の画を覗いているのである。失敬である。とうとう私は我慢がならなくなって、睨みつけるように振り向いた。だが、そこにあったのは笑顔である。埃まみれの白の軽トラックの中には、六十くらいの日焼けしてガッチリとした女と、その母だろうか八十近くの小さな老婆が、フロントガラスの向うにちょこんと座っていた。たぶん次の畑に行く途中の束の間だったのだろう。老婆を残して、女が車から出て来て画に近づき、「先生の絵はいつ見ても良い。心が休まる。」と独り言の様に言う。お世辞とは思えぬその言い方に、私は神の前に立たされた様に恥ずかしくなった。「先生は貴女達の方だ。貴女たちは、額に汗して泥まみれで働いている。文句を言わずに苦悩に堪え、人生を隣人の為に捧げている。」


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